日常会話で使われる「エロい」「下品」「不謹慎」という感情と、刑事罰の対象となる「わいせつ」は明確に区別されます。日本の刑事司法において、わいせつの法律上の定義を決定づけているのは、1951年(昭和26年)の最高裁判所大法廷判決です。
最高裁は、刑法上のわいせつ概念について以下の3つの要件をすべて満たすものと判示しました。
第1に、いたずらに性欲を刺激または興奮させること。単なる知的好奇心や医学的関心ではなく、性的な刺激を過度に煽る性質が求められます。
第2に、普通の人の正常な性的羞恥心を害すること。特定の潔癖な人物や寛容な人物を基準にするのではなく、社会通念上の「平均的な一般人」が羞恥を覚えるかどうかが判断基準となります。
第3に、善良な性的道義観念に反すること。社会秩序として健全な性道徳に著しく背馳しているかどうかが問われます。
刑法におけるわいせつ行為は、主に保護法益(法律が守ろうとする利益)の違いによって2種類に大別されます。一つは社会全体の健全な性秩序を守るための「公然わいせつ罪(刑法174条)」や「わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)」。もう一つは個人の性的自己決定権を守るための「不同意わいせつ罪(刑法176条)」です。同じ「わいせつ」という語が冠されていても、対象となる法益が個人の尊厳なのか、社会秩序なのかによって構成要件は根本から異なります。