胡蝶カナエという人物の真価は、その卓越した剣技だけでなく、徹底した他者への深い慈悲にありました。その象徴が、人身売買の縄で引かれていた幼い栗花落カナヲとの出会いです。
親から虐待を受け、感情を押し殺し、自ら思考することをやめてしまっていたカナヲを、しのぶと共に買い取って救い出したカナエ。言われないとご飯も食べず指示を待つだけのカナヲに対し、しのぶは「危なっかしくてダメ」と現実的な懸念を抱きます。しかしカナエは優しく微笑み、一枚の銅貨を手渡しました。
「一人で決められない時はね、これを投げて決めたらいいのよ。人はね、心が原動力だから、心はどこまでも強くなれるの」
カナエはカナヲを無理に変えようとせず、「いつか好きな男の子でもできたら、カナヲだって変わるわよ」と未来を肯定しました。この時託された銅貨と温もりこそが、後にカナヲが自らの意思で戦場に立ち、感情を取り戻す決定的な契機となります。
そして、カナエが羽織っていた鮮やかな蝶の羽織は、彼女の死後、妹である胡蝶しのぶへと受け継がれました。しのぶは普段、怒りを隠してカナエのような笑顔を貼り付け、姉の羽織を身に纏うことで「姉の理想」を自らの体に同化させていました。そして無限城の決戦を経て、その意志と羽織の切れ端はカナヲへと引き継がれます。一枚の羽織に宿った魂のリレーは、まさに胡蝶姉妹とカナヲの絆の象徴でした。