若松屋の看板メニューである「せいろ蒸し」を一口運ぶと、まず驚かされるのが熱々の温度感と、米粒の一粒一粒まで均一に行き渡ったタレの旨味です。漆塗りの朱色の蒸籠を開けた瞬間に立ち上る湯気とともに、鮮やかな黄色の錦糸卵と飴色に輝く鰻が姿を現します。
この味を決定づけているのが、幕末の創業以来、一滴たりとも絶やすことなく継ぎ足されてきた「秘伝のタレ」です。地元・九州特有の甘みを湛えた濃厚な醤油と上質な本みりん、氷砂糖などを独自の黄金比率でブレンドし、何世代にもわたる鰻のエキスが溶け込んだタレは、角が一切なく、まろやかで奥深いコクを誇ります。
一般的な鰻重のように「白飯の上にタレを回しかける」手法をとらない点も、若松屋の大きな特徴です。炊き立てのご飯に秘伝のタレを丁寧に混ぜ合わせ、そのタレご飯の上に蒲焼きと錦糸卵を美しく敷き詰めてから蒸籠ごと蒸し上げます。この工程により、熱々の蒸気の中でタレの風味が米の芯まで浸透し、鰻から染み出た上質な脂と融合します。最後のひと口まで冷めることなく、均一な深い旨味を堪能できる構造こそ、若松屋が誇る味の核心といえます。