三田の奇跡「蟻鱒鳶ル」の現在地|立ち退き回避と曳家、完成の真相

三田の奇跡「蟻鱒鳶ル」の現在地|立ち退き回避と曳家、完成の真相

三田の奇跡「蟻鱒鳶ル」の現在地|立ち退き回避と曳家、完成の真相の見逃せないポイントを一挙に解説しました。

蟻鱒鳶ルが直面した最大の危機が、港区三田三・四丁目地区で進められた約4ヘクタールに及ぶ大規模な市街地再開発事業でした。当初、計画区域のど真ん中に位置していた蟻鱒鳶ルは、一般的な都市再開発の論理に従えば「立ち退き・解体」を余儀なくされる運命にありました。ネット上でも「ついに解体か」「手作りビルの終焉」と悲観的な憶測が飛び交った時期があります。

しかし、事態は極めて異例の展開を辿りました。岡啓輔氏は感情的な反対闘争に走るのではなく、再開発組合や特定事業参加者である住友不動産、都市計画コンサルタントと10年以上にわたる真摯な直接対話を重ねました。その結果、デベロッパー側も蟻鱒鳶ルが持つ圧倒的な文化的・建築的価値を認め、「建物を解体せず、約10メートル曳家して敷地内に残す」という都市開発史上きわめて珍しい合意が2018年に成立したのです。

約200トンにも及ぶ複雑な手作りRC構造体を、ミリ単位の精度でジャッキアップして移動させる曳家工事は、日本の高度な土木技術と岡氏の信念が結びついた象徴的な出来事でした。資本の論理による排除ではなく、個人建築家と巨大デベロッパーが対話を尽くして共存の道を選んだこの事例は、日本の都市計画史における記念碑的な成果として国内外の建築関係者から極めて高く評価されています。

中川 明日香
著者

中川 明日香

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。