物語の引き金となったのは、あまりにも日常的で、それゆえに不気味さを際立たせた「炊飯器失踪事件」でした。主人公・相良凌介(西島秀俊)が仕事を終えて帰宅すると、妻の真帆(宮沢りえ)、高校生の長女・光莉(原菜乃華)、小学生の長男・篤斗(小林優仁)の姿がなく、炊飯器には炊きたてのご飯が保温されたまま残されていました。警察が当初「単なる家出」として本格捜査に動かないなか、凌介の学生時代からの親友で週刊追及の編集長・河村俊夫(田中哲司)が自社のネットメディアで記事を公開したことから事態は急転直下します。
善意で拡散されたはずの家族写真は、ネット民の残酷なオモチャへと変貌していきました。SNS上で相良凌介怪しい理由として槍玉に挙げられたのは、失踪当夜に凌介が同僚と笑顔でビールジョッキを掲げていたSNS写真や、マスコミの囲み取材で見せた不自然な笑顔、さらには学生時代に書いた小説の筋書きと事件の手口の奇妙な一致でした。「悲劇の父親」という世間の期待する記号からわずかでも外れた瞬間、ネット世論は彼を「妻子を殺害したサイコパス」へと仕立て上げました。
この真犯人フラグ 炊飯器失踪事件経緯における世論の過熱は、単なるフィクションの枠組みを超え、現代のデジタル・タブロイド社会が抱える「確証バイアス」と「ネット私刑(デジタル・リンチ)」の恐怖を克明に炙り出していました。視聴者自身もまた、画面の中の無責任なネット民と同様に、「凌介は二重人格ではないか」「彼こそがすべての元凶ではないか」という疑心暗鬼の渦へと引きずり込まれていったのです。