中つ国の地理を深く理解する上で避けて通れないのが、時代ごとの激変です。トールキンの神話世界(アルダ)は決して固定された地形ではなく、神々(ヴァラール)の戦いや冥王の跳梁によって大陸そのものが破壊と再編を繰り返してきました。
物語の原点となる第一紀を描いたベレリアンド第一紀地図では、現在のエリアドール(ホビット庄がある地域)のさらに西側に、広大な「ベレリアンド大陸」が存在していました。この地はエルフの諸王国が栄えた美しい地でしたが、第一紀末の「怒りの戦い(War of Wrath)」によって大陸の大部分が海中へと没し、青の山脈(エレド・ルイン)の西側境界が新たな海岸線となりました。
続く第二紀を描いた中つ国第二紀第三紀地図を比較すると、さらに巨大な天変地異が確認できます。人間(ドゥーネダイン)に与えられた星形の楽園の島を描くヌーメノールゴンドール地図は、第二紀の繁栄と破滅を象徴しています。ヌーメノール王国の傲慢が神の怒りを買い、島が深海へ沈んだ「世界の変革(Change of the World)」により、それまで平ら(平面)であったアルダの世界は球体へと湾曲し、神々の住まう不死の国アマンは世界の構造から切り離されました。
第三紀の『指輪物語』で私たちが目にする地形は、かつての大陸崩壊と地殻変動を生き延びた「傷跡」としての世界です。西方の海を渡るエルフの船だけが、湾曲した球体世界から外れ、かつての直線航路を通って西方へ去ることができるという地理設定は、トールキン文学の哀愁と美しさを象徴しています。