SNSやネット掲示板では「フラッシュ暗算初段は一般人には無理」「脳の構造が違う特殊能力者だけの領域」といった言説が頻繁に交わされています。しかし、認知神経科学およびそろばん教育の臨床現場から見れば、この言説は半分正しく、半分は誤解です。
無理だと言われる最大の理由は、計算を「言語的・論理的(左脳)」に処理しようとする大人の常識にあります。一般の人が「782+419=……」と計算する場合、頭の中で「2足す9は11で、1繰り上がって……」と内省言語を用いて段階的に処理します。この処理回路では、1つの数字を足すのに最短でも0.5秒〜1秒を要するため、0.26秒間隔で数字が降ってくるフラッシュ暗算初段のスピードには物理的に追いつきません。
一方、有段者の脳内では何が起きているのか。近年の脳機能イメージング研究によると、熟達した暗算保持者は右脳の頭頂連合野を活発に駆動させていることが判明しています。彼らは数字を記号ではなく、頭の中に投影した「バーチャルそろばんの珠(画像データ)」として認識しています。
画面に現れた3桁の数字は、言語を介することなく網膜から直接「珠の配置変化」へと変換されます。映画のフィルムが動いてアニメーションに見えるのと同様に、そろばんの珠が勝手に動く映像を直観的に知覚しているだけなのです。この「右脳の映像処理メカニズム」が確立されているかどうかが、一般人にとって超能力に見えるか、それとも当たり前の認知作業に感じられるかの分岐点となっています。