珠世の傍らに常に寄り添う青年・愈史郎は、彼女が200年以上の医学研究の末に「無惨の力を使わずに自らの手で鬼化させた唯一の成功例」です。不治の病で死の淵にあった愈史郎に対し、珠世は「人であることを捨ててでも生き永らえたいか」を厳格に問い、本人の明確な合意を得た上で施術を行いました。
愈史郎にとって珠世は、命の恩人であると同時に世界で最も美しい絶対の崇拝対象です。一見すると愈史郎の激しい狂愛や執着、珠世への依存に見えますが、その根底にあるのは「珠世の孤独と罪悪感を少しでも分かち合いたい」という無償の愛でした。珠世自身もまた、自らが地獄へ堕ちるべき存在だと頑なに思い詰める中で、愈史郎の存在によって精神の均衡を保っていたことは間違いありません。
二人の関係は単なる主従や恋愛感情という枠組みを超え、互いの魂を現世に繋ぎ止める防波堤となっていました。珠世が最期の戦いに向かう際、愈史郎を戦線から遠ざけようとしたのは、彼にだけは人間としての未来や平和な世界を生きてほしいという、深い母性にも似た情愛があったからに他なりません。