机上のシミュレーションだけでなく、実際に約100日間の外洋航海を経験した乗船客の手記や現場取材からは、パンフレットのきらびやかな宣伝文句とは異なる生々しい実態が浮かび上がってきます。
「乗る前は『最安値の相部屋なら200万円台前半で世界を回れる』と胸を躍らせていた。しかし、見ず知らずの同室者4人との共同生活は想像を絶する過酷さだった」
大手SNSや個人ブログ、知恵袋などのコミュニティで頻繁に交わされるピースボート費用実態に関する証言では、若年層や退職シニア層が最安値プランを選んだ末の悲喜こもごもが生々しく語られています。部屋の消灯時間やいびき、貴重品の管理、空調温度をめぐる同室者間の対立によって精神的に摩耗し、航海半ばで数十万円の追加料金を払って部屋替えを懇願した乗客の体験談も一度や二度ではありません。
一方で、欧米系プレミアム船であるクイーン・エリザベスを選んだ元商社勤務の男性(68歳)は、自著の手記の中でこう述懐しています。
「毎晩のように開催されるカクテルパーティやガラディナーは華やかそのものだが、タキシードの新調や妻のイブニングドレス代、船内美容室の利用代金だけで出発前に80万円が飛んだ。船内では周囲の視線もあり、有料の高級ワインや寄港地のプライベートハイヤーを使わざるを得ない同調圧力が働いた。結果として夫婦での散財は予定予算を300万円以上オーバーした」
船旅における「ステータス」と「人間関係」は、陸上生活以上に消費行動を刺激します。見栄や社交が絡む長期航海では、財布の紐を締め続けること自体が精神的負荷につながるという事実は、経験者が異口同音に口を揃える現場の真実です。