長年愛される「八海山 特別本醸造」は一体なぜ高い評価を得ているのか。その核心は、蔵元である八海醸造(新潟県南魚沼市)が掲げる「日常の晩酌酒こそ最高品質を」という徹底した現場主義にあります。一般的に鑑評会用の高級酒に注ぎ込まれるような高度な技術と設備投資を、惜しみなく毎日の定番酒へ還元するアプローチこそが、この酒の屋台骨です。
八海山 特別本醸造の味の特徴を一言で表すなら、「極めて澄み切った口当たりと、引き際の美しさ」に尽きます。グラスに注ぐと、過度な自己主張を控えた穏やかな吟醸香がわずかに漂い、口に含むと絹のように滑らかな感触が広がります。決して水っぽくならず、米由来のやわらかな旨味が舌の上で微かに膨らんだ刹那、鋭利な刃物で断ち切られたかのようにスッと喉奥へ消え去る後味のキレは圧巻です。
この切れ味鋭い辛口の理由は、南魚沼の自然環境と科学的な醸造管理の結晶といえます。八海山系の地層深くから湧き出る仕込み水「雷電様の清水」は、硬度約2度という極めて硬度の低い超軟水です。軟水での仕込みは酵母の活動が穏やかになるため、醪(もろみ)を厳冬期の寒冷な空気の中でじっくりと低温発酵させる必要があります。日数をかけて糖分をアルコールへと完全に分解させることで、糖残りのないドライな酒質が生まれ、同時に雑味の原因となるアミノ酸の生成を極小化しているのです。