保護者が最も陥りやすい罠が、「小学校に入れば周りの友達と話すうちに自然に治るのではないか」という根拠のない楽観論です。発音の誤りには、発達段階で一時的に現れる「置換(ちかん)」と、側音化構音に代表される「歪み(ひずみ)」の2種類が存在します。
例えば、「さかな」を「たかな」と言ったり、「くるま」を「つるま」と言ったりする誤りは、音の要素が未熟なために別の簡単な音へと置き換わる現象です。こうした置換は、聴覚的なフィードバック(自分の耳で聞いて他者との違いに気づくこと)や構音器官の発達に伴い、5歳から6歳頃までに約80〜90%が自然治癒へと向かいます。しかし、側音化構音は音の置き換えではなく、異常な空気の流れによって生じる「歪み音」です。歪み音は本人にとって「自分では正しく言えているつもり」であるケースが多く、耳からのフィードバックだけでは誤りに気付きにくいという極めて厄介な性質を持っています。
日本言語聴覚士協会の臨床知見でも指摘されている通り、側音化構音は「一度定着すると自然治癒することは極めて稀」とされています。誤った舌の動かし方と気流の抜け道が、大脳の運動プログラムとして一度強固に記憶されてしまうと、年齢を重ねてもその誤ったパターンを忠実に再現し続けてしまうためです。
小児期に適切な介入を行わずに放置した場合、小学校入学後の音読発表でのつまずきや、からかいの対象になるといった対人関係のストレスに発展するリスクが高まります。さらに思春期以降には、「自分の声を聞かれるのが恥ずかしい」「人前で口を開けて話したくない」という対人恐怖や自己肯定感の著しい低下を招き、社会人になってからの面接やプレゼンテーションで深刻なコンプレックスとして表面化することが臨床現場の調査からも明らかになっています。