【プロの結論】ジェンダー観の転換と身体的リアリズムが遺した教訓
社会学的な見地から分析すると、『ウォーターボーイズ』は2000年代初頭の日本社会における「男らしさの脱構築」を先駆的に提示した作品でした。当時、「女子の競技」という固定観念が強固だったシンクロナイズドスイミングに男子高校生が真剣に打ち込む姿は、既存のジェンダーロールを軽やかに打破するインパクトを持っていました。しかもそれを説教くさいメッセージとしてではなく、普遍的な「青春の輝き」へと昇華させた矢口演出の功績は計り知れません。
さらに、本作が妻夫木聡にもたらした最大の栄誉が、第25回日本アカデミー賞における新人俳優賞および優秀主演男優賞のダブル受賞でした。単なるアイドル俳優の枠組みを超え、全身全霊で役柄に同化する「身体的リアリズム」が高く評価された結果です。フィンガー5の楽曲をはじめとするウォーターボーイズの主題歌・劇中歌(『学園天国』など)が響く中、水面を叩きながら歓喜するラストシーンは、妻夫木聡の若い頃の代表作として邦画史に深く刻まれました。
現在における妻夫木聡の目覚ましい活躍——TBS日曜劇場での重厚な主演、李相日監督作品『悪人』『怒り』での極限の心理描写、さらにはアジア・国際共同製作映画への参画——その強靭な表現力の原動力は、間違いなくこの静岡のプールで培われたものです。「小手先のテクニックではなく、役に心身すべてを捧げる」という俳優哲学は、20代の初頭に水中で限界を超えた経験から育まれました。