急成長の原点を辿ると、一組のベトナム人留学生兄弟の挑戦に行き当たります。バインミーシンチャオの創業者の経歴において中心人物となるのが、兄のブイ・タイン・ズイ(Bui Thanh Duy)氏と弟のブイ・タイン・タム(Bui Thanh Tam)氏です。
経済と経営を学ぶために来日したタム氏は、留学生として日本で生活するなかで「ラーメンや寿司のように、ベトナムの国民食であるバインミーが日本の街角で日常的に親しまれる未来を作りたい」という強烈な志を抱きました。日本の外食文化を徹底的に研究した兄弟は、2016年、留学生が多く多国籍な食文化が交差する街・新宿区高田馬場にわずか数坪の1号店、現在のバインミーシンチャオ 高田馬場本店を開業したのです。
創業当初は資金面・オペレーション面での試行錯誤が続いたものの、兄弟が妥協しなかったのは「パンの焼き上がり」と「現地の味付け」でした。日本で手に入るパンではベトナムのサクサク感が出せないと知るや、製パン工場と交渉を重ねて独自の米粉ブレンドと製法を確立。その本気度は瞬く間に在日ベトナム人たちのSNSで拡散され、母国の味に飢えていた同胞の行列を生みました。
さらに特筆すべきは、エスニック特有の「現地そのままの味」を頑なに守り抜いたことです。多くの海外料理店が「日本人好みに甘くする・香草を減らす」というアレンジの罠に陥り、かえって個性を失うなか、彼らはオーセンティシティ(本物性)を死守しました。その愚直な姿勢こそが、結果として本物を求める日本の若者やカルチャー層を惹きつける決定打となったのです。