摩周湖にまつわる最大の誤解は、1966年に大ヒットした名曲『霧の摩周湖』によって定着した「行っても霧ばかりで湖面はめったに見られない」という先入観です。気象庁および環境省の長期観測記録を紐解くと、事実はまったく異なります。
弟子屈町の気象統計によると、摩周湖で終日完全な濃霧に包まれて湖面が一切視認できない日は、年間を通じて約100日前後にとどまります。つまり、年間の約3分の2にあたる260日以上は湖面を確認できる時間帯が存在する計算になります。特に12月から2月にかけての厳冬期は、シベリア高気圧に覆われて空気が澄み渡るため晴天率が跳ね上がり、霧の発生率は年間で最も低くなります。「霧の湖」というイメージは、6月から7月の海霧シーズンに訪れる旅行者の印象が過剰に一般化された偏見に過ぎません。
また、昭和から平成にかけて広く流布した「未婚者が晴れた摩周湖を見ると婚期が遅れる」「晴天の摩周湖を見た者は出世できない」といった俗説も、科学的根拠のない観光的ミソロジー(神話)です。この迷信が生まれた背景には、当時訪れる観光客があまりの霧の多さに失望して帰路に就くのを慰めるため、地元のバスガイドや観光関係者が「晴れを見られなかったあなたには、これから素晴らしい良縁が訪れる」と機転を利かせた心理的フォローが起源であると語り継がれています。現代においては、晴天の摩周ブルーも、カルデラを呑み込む壮大な滝霧も、それぞれが固有の価値を持つ地球規模の自然景観として捉え直されています。