誰もがオリンピックメダリストの独走を信じて疑わなかった。しかし、冷たい春風が吹き抜ける赤坂の特設コースで主役の座を奪い去ったのは、ノーマークだった若手俳優だった。陸上競技の経験があるとはいえ、本物のプロを相手にこれほどの走りができるとは、一体誰が予想できただろうか。スタート直後から狂いのないハイペースを維持し、スタジアムさながらの熱気に包まれたTBS放送センター周辺を駆け抜ける姿は、見る者の鳥肌を立たせた。
レース中盤、実況の声が裏返る。追うプロランナーたちの足音が背後に迫る中、その差は縮まるどころか、むしろ開いていくようにも見えた。沿道に詰めかけた観客からの割れんばかりの声援が、彼の背中を強力に押し出す。テレビ画面越しにも伝わるその尋常ならざる緊張感は、台本のないリアルなドキュメンタリーそのものだった。