メディア文化およびジェンダー社会学の観点から木村沙織さんのキャリアを分析すると、日本における女性アスリートに対する「メディアの視線消費」の変遷が鮮明に浮かび上がります。
2000年代から2010年代初頭のメディア環境では、実力派トップ選手であっても「容姿」や「スタイル」が過度にクローズアップされる傾向がありました。アスリート本人の意図とは無関係にグラビア的な需要がネット上で加熱したのは、当時のメディア構造が生み出した歪みと言えます。
しかし引退後の木村さんは、自らの公式Instagramを通じて、愛犬や夫、子どもとの温かな日常、お気に入りの私服コーディネート、カフェプロデュースなど、「自分自身の手で切り取る世界観」を発信し始めました。38歳での「人生初の水着購入」の報告が健全な共感を集めたのは、消費される対象から、自己決定権を持った表現者へと完全に脱皮した象徴的な出来事だったと言えます。