「薄暗い展示室の角を曲がった瞬間、爪から皮膚を垂らした人形が立っていて息が止まった」「夢に出てきて何年も頭から離れなかった」。かつての資料館を知る人々からは、いまもこうした生々しい証言が寄せられる。
昭和から平成にかけて、平和教育の現場では「惨状をそのまま見せること」が最大の教育効果をもたらすと信じられていた節がある。しかし、あまりにも強烈なビジュアルは、子どもの心に深い恐怖心だけを植え付け、結果として資料館そのものや原爆の話題から目を背けさせる逆効果を生むことも少なくなかった。
「人形の怖さばかりが記憶に残り、展示されていた解説パネルの内容は一切覚えていない」という元小学生たちの声は、展示手法の見直しを裏付ける決定的なデータとなった。恐怖の恐怖政治から、個人の尊厳と思考を促す展示へ。記憶の継承は、大きなパラダイムシフトを遂げたのである。