彼女の歌がなぜ半世紀の時を超えて聴く者の胸を揺さぶり続けるのか。その理由は単純だ。彼女にとってマイクの前に立つ行為は、歌唱であると同時に、一人の人物の人生を短時間で演じきる戯曲そのものだったからである。
「喝采」や「夜間飛行」を歌う彼女の表情を凝視すると、イントロからアウトロに至る数分間で、一つの濃密なドラマが完成していくのがわかる。歌詞の情景を単に美しい声でなぞるのではない。主人公が胸に秘めた屈託、楽屋の残り香、スポットライトの眩しさと裏腹の虚無感――それらを声の微妙な擦れや眼差し一つで視覚化してみせた。歌という手段を通じた、極限まで濃縮された一人芝居だった。