1990年代半ば、Mr.Childrenは社会現象とも呼べる空前のブームの中心にいました。『Atomic Heart』の大ヒット、シングルミリオンセラーの連発、そして人間の深淵を描いたアルバム『深海』や『BOLERO』のリリース。しかし、その栄光の裏でバンドは極限の疲弊状態に陥っていました。1997年春、ツアー終了とともに彼らは突如として活動休止に入ります。当時の音楽メディアやファンの間では「このまま解散するのではないか」という不安が現実味を帯びて囁かれていました。
フロントマンである桜井和寿は、当時の特番インタビューや自著・音楽誌の取材において、当時の心境を「空っぽになってしまった」「音楽を作る意味すら見失いかけていた」と率直に明かしています。世間が求める「ポップスターとしてのMr.Children」と、生身の自分たちの乖離。名声を手に入れた代償としての虚無感が、創作の筆を止めさせていました。
転機となったのは、1998年秋クールのフジテレビ系ドラマ『殴る女』(和久井映見主演)の主題歌オファーでした。傷つきながらもリングに立つボクサーと女性トレーナーを描く骨太なプロットに触発された桜井は、誰かの期待に応えるヒット曲ではなく、「今、自分たちが再び音を鳴らすための理由」を紙とギターに叩きつけるように書き始めます。
レコーディング現場では、メンバー4人がスタジオで顔を合わせ、愚直に音を重ね合わせる原点回帰の作業が行われました。小林武史による緻密なストリングスアレンジと、泥臭く力強いバンドサウンドの融合。桜井が後年のインタビューで「これでダメならバンドを辞めてもいいという覚悟だった」と語った通り、本作は商業的な成功を狙ったプロダクトではなく、活動休止という自問自答のトンネルを抜けるために吐き出された、メンバー自身の生存証明でした。