『シング・シング・シング』が時代や文化の垣根を軽々と飛び越えて人々を惹きつける最大の要因は、聴き手の本能を直撃するリズム構造とドラマチックなスリルにあります。その心臓部を担うのが、ジャズドラムのパイオニアであるジーン・クルーパによる伝説的名演です。
1930年代初頭までのドラムセットは、あくまでバンドのテンポを維持する「伴奏用の裏方楽器」に過ぎませんでした。しかしクルーパは、低音の効いたフロアタムを連打する強烈なジャングル・ビートを前面に押し出し、ドラマーを一躍ステージの主役へと引き上げました。当時の録音エンジニアが「音が大きすぎてレコードの溝が飛ぶ」と頭を抱えたという逸話が残るほど、そのアタック音とグルーヴは革新的でした。
音楽心理学の観点から分析すると、本作の構成には人間の興奮状態を段階的に高める見事なトランス効果が組み込まれています。
第一に、低音タムによる単調かつ力強いミニマルなビートが聴き手の心拍数を同期(エントレインメント現象)させます。第二に、静けさと爆発を繰り返すダイナミクスの高低差。そして第三に、鋭利に突き刺さるベニー・グッドマンのクラリネットソロと、咆哮するブラスセクションのコール&レスポンスです。張り詰めた緊張感が最高潮に達した瞬間、一気に全パートがユニゾンで解放されるカタルシスが、聴く者に抗いがたい陶酔感をもたらします。