歌舞伎の女形とも、一般的なドラァグクイーンやテレビの女装とも一線を画す梅沢富美男の美しさ。その根底には、徹底的に計算された「錯視の技術」と「身体のデフォルメ」が存在します。
伝統的な歌舞伎の化粧は、様式美を重んじるため平面的かつ抽象的な美しさを目指す傾向があります。これに対し、客席との距離が極めて近い大衆演劇で育った梅沢のメイクは、「どの角度から見ても立体的に女性の艶っぽさを感じさせる」ための独自配合が施されています。自ら研究を重ねた白粉の溶き具合や、目尻に入れる紅(赤)の絶妙なグラデーション、アイラインのミリ単位の引き方は、男性特有の骨張った輪郭や眉骨の凹凸を完全に消し去るための工夫が凝縮されています。
しかし、メイク以上に観客を圧倒するのが、長年の観察から生み出された身体技法です。本人が過去のテレビ特番インタビューで語っているように、若き日の彼は街中の喫茶店や盛り場に何時間も座り込み、一般の女性たちが無意識に見せる仕草を徹底的に観察しました。
- 首筋の角度と脱力:男性の逞しい首筋を隠すため、常に顎を引き、肩甲骨を下げて鎖骨のラインを美しく見せる独自の姿勢制御。
- 「流し目」の視線設計:目線を正面に向けるのではなく、伏し目からゆっくりと斜め上へと移動させることで、情感とミステリアスな憂いを演出。
- 指先の残像:手元を小さく見せるため、親指を着物の袂に隠しつつ、中指と薬指にわずかな丸みを持たせて余韻を残す所作。
単に「女性の真似」をするのではなく、男の身体という制約を逆手に取り、「女性よりも女性らしく見える極上のエッセンス」だけを抽出して再構成しているからこそ、観る者は強烈な色香に圧倒されるのです。