山崎豊子の原作小説『沈まぬ太陽』は、全5巻(「アフリカ篇」上下巻、「御巣鷹山篇」上下巻、「会長室篇」)からなる大長編です。その物語構造は、単なる企業小説の枠を超え、人間の尊厳と巨大組織の非情さを浮き彫りにする重厚な人間ドラマとなっています。
物語の発端は、国民航空(NAL)の労働組合委員長を引き受けた恩地元が、運航の安全確保と劣悪な労働環境の改善を求めて経営陣と激しく対立したことに始まります。首相フライト時のストライキ決行という前代未聞の事態を経て賃上げを勝ち取ったものの、会社側は恩地を「危険分子」とみなし、パキスタンのカラチ、イランのテヘラン、そしてケニアのナイロビへと、10年近くにわたり日本帰任を許さない報復人事を強行します。
一方、かつて労組で恩地と苦楽を共にした同期の行天四郎は、早々に組合を裏切って経営陣に擦り寄り、裏工作や不正経理を引き受けながら猛スピードで出世階段を駆け上がっていきます。対照的な二人の運命は、1985年に起きた乗員乗客524名中520名が犠牲となったジャンボ機墜落事故によって再び交錯することになります。
日本へ帰国した恩地は、地獄絵図と化した御巣鷹山の事故現場で遺族係を命じられ、悲嘆と怒りに狂う遺族一人ひとりと真摯に向き合い続けます。その後、総理大臣の要請で民間企業から招聘された新会長・国見正憲によって恩地は会長室長に抜擢され、腐敗した社内改革と不正追及に乗り出しますが、利権を手放さない旧経営陣や政界の圧力により国見会長は志半ばで失脚。権力を握りかけた行天もまた自らの不正工作が露呈して失脚し、東京地検特捜部の捜査を受ける身となります。そして恩地は、一切の栄達を望まず、再び自らの原点であるアフリカ・ケニアの地へと旅立っていくという、哀愁と崇高な気高さを残す結末を迎えます。