阪神タイガースの象徴ともいえるジェット風船応援の休止は、2020年春のプロ野球開幕延期とともに始まりました。甲子園のスタンドを埋め尽くす4万数千人の大観衆が一斉に息を吹き込み、一瞬で大気中へ解き放つ応援スタイルは、飛沫感染リスクの観点からプロ野球界全体で見合わせの対象となったのです。
応援風景の喪失から数年間、球団や応援団、そしてメーカー各社は「伝統の継承」と「公衆衛生の確立」という困難な両立に挑み続けました。転機となったのは、特殊な逆止弁を内蔵し、手動ポンプでのみ膨らませるクリーンな新型風船の開発です。他球団での実証実験や京セラドーム大阪での段階的検証を経て、ついに阪神甲子園球場でも公式ジェット風船の本格運用が再開されました。
7回表終了を告げるオルゴール調の『阪神タイガースの歌(六甲おろし)』が鳴り響くと、スタンド全体が鮮やかな黄色に染まり、合図とともに一斉に空へ舞い上がります。現地で取材した長年のタイガースファン(50代男性)は、「風船が夜空を埋め尽くす光景を見て、ようやく甲子園に日常と魂が帰ってきたと実感し、胸が熱くなった」と当時の感動を振り返っています。