「かつおの旬は何月なのか」という疑問に対する最も正確な答えは、「春の3〜5月」と「秋の9〜11月」の2回です。この二重構造を生み出している主因は、かつおが外洋をダイナミックに移動する高度回遊魚であるという生態的特質にあります。
かつおはフィリピン沖など南の温かい海域で生まれ、春の訪れとともに暖流である黒潮に乗って日本列島の太平洋岸を北上します。この北上ルートの先頭集団が、鹿児島から高知、そして静岡・三浦半島沖へと到達する時期が3月から5月にかけての初鰹の時期です。江戸時代の俳人・山口素堂が「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」と詠んだ通り、当時の江戸っ子たちが借金してでも初物を競い合って食べた歴史的背景には、季節の生命力をいただく縁起物としての絶大な価値がありました。
一方、東北・三陸沖から北海道近海まで達したかつおは、冷たい親潮とぶつかる潮目で豊富なプランクトンやイワシなどの小魚を貪欲に捕食します。水温の低下とともに脂肪を極限まで蓄えた魚群は、初秋の訪れとともに産卵のため再び南下を開始します。これが9月から11月にかけて水揚げされる戻り鰹の時期(地域によっては「下り鰹」や「脂鰹」とも呼ばれる)です。
スーパーの鮮魚売り場を詳細に観察すると、真夏の7〜8月や真冬の12〜2月には国産の生かつおがほとんど並ばない事実に気づきます。夏場は北上した群れが沖合深くに拡散して沿岸漁獲が難しくなり、冬場は越冬のため南の遠洋へと戻ってしまうためです。流通の現場では、この回遊の空白期間には主に三陸や遠洋で急速冷凍されたブロック肉が市場を支えています。