どれほど優れた詞と曲があっても、それを表現し切る歌い手がいなければ名曲は完成しません。尾崎紀世彦のボーカルは、当時の歌謡界においてまさに異次元のクオリティを誇っていました。
トレードマークであるもみあげと端正な顔立ちに加え、クラシック声楽やハワイアン、ジャズの素養に裏打ちされた響き豊かな中低音と、天井知らずのハイトーン。テレビ番組のスタジオ生放送において、「ハンドマイクをおへその位置まで離しても声量が全く落ちない」という逸話を残すほど、圧倒的な肺活量と正確無比なピッチコントロールを兼ね備えていました。
1971年末の第13回日本レコード大賞では、審査員満場一致に近い形で大賞を獲得。さらに同年の第2回日本歌謡大賞も制覇し、史上初の2大歌謡祭グランプリ独占という快挙を成し遂げました。この歌唱力があったからこそ、筒美京平の複雑なテンションコードと阿久悠の硬質な言葉が、聴く者の魂を揺さぶるアンセムとなったのです。