国民的スターとしてテレビや劇場の第一線で活躍していたパンくんが、なぜ突如として表舞台から姿を消すことになったのか。その転換点となったのが、2012年9月に発生した咬傷事故でした。
当時、阿蘇カドリー・ドミニオン内の劇場「みやざわ劇場」の公演終了直後、舞台袖に控えていた実習生の女性スタッフに対し、パンくんが突然飛びかかり咬みついて重傷を負わせる事故が発生しました。この事態を受け、園は即座にショーを無期限休止し、パンくんのショーステージからの完全引退を正式決定しました。
動物行動学の観点から見れば、この事故は「パンくんが凶暴化した」のではなく、チンパンジーという野生動物が成体(オトナ)になる過程で避けて通れない性成熟の現象でした。霊長類のオスは10歳前後に達するとテストステロン(男性ホルモン)の分泌が急増し、群れの中での順位確認や自己主張を行うようになります。どれほど高度な知能を持ち人間に親しんでいても、成体チンパンジーを舞台上で人間と直接共演させ続けること自体に構造的な限界があったといえます。