普段なら笑って受け流せる冗談にひどく傷つき、鍵が見当たらないだけでパニックになって涙がこぼれる現象には、明確な身体的根拠が存在します。感情が脆弱になったのではなく、脳の情動を司る部位が生物学的なブレーキを失っている状態だからです。
排卵期を過ぎて黄体期に入ると、妊娠を維持するために分泌されていた黄体ホルモン(プロゲステロン)と卵胞ホルモン(エストロゲン)が、生理直前に向けて急激に減少(落差で急降下)します。この急激な女性ホルモンバランスの乱れが、自律神経中枢である視床下部を激しく刺激します。
なかでも気分の安定を担う神経伝達物質「セロトニン」の分泌は、エストロゲンと密接に連動しています。エストロゲンが激減すると、脳内ではセロトニンが著しく不足し、不安や悲しみを抑制する機能が低下します。同時に、不安や恐怖を察知する「扁桃体」が過敏な興奮状態に陥るため、外部からのごくわずかなストレス刺激に対しても「耐え難い悲嘆」として脳が過剰反応を起こし、生理中涙が止まらない理由となって表面化するのです。
さらに生理が本格化すると、子宮内膜を排出させるために「プロスタグランジン」という発痛物質が大量に産生されます。これが下腹部痛や頭痛を引き起こすだけでなく、全身の血管を収縮させて血流を悪化させます。激しい身体的苦痛や疲労感、貧血による脳の酸素不足が重なることで、感情を整える前頭葉のエネルギーが枯渇し、抑えきれない涙となって溢れ出します。