海岸線の開放的な景観から一転、内陸部の山間に足を踏み入れると、そこには神仏習合の山岳信仰「六郷満山文化」が育んだ静謐な祈りの聖地が広がっています。喧騒から完全に隔絶されたこのエリアには、知る人ぞ知る豊後高田市観光穴場が点在しています。
その筆頭が、平安時代後期に建立された九州最古の木造建築物として名高い国宝富貴寺大堂です。宇治の平等院鳳凰堂、平泉の中尊寺金色堂と並び「日本三阿弥陀堂」の一つに数えられる名刹であり、萱葺き屋根と素朴な白木造りの堂宇が周囲の榧(かや)の原生林と完全に調和しています。堂内に安置された本尊の阿弥陀如来坐像(国重要文化財)と、極楽浄土を描いた壁画群の厳かな気配は、訪れる者の心を瞬時に静寂へと導きます。新緑の青もみじ、そして晩秋の一面を黄金色に染め上げるイチョウの絨毯の時期は格別の美しさです。
さらに奥地へと進むと現れるのが、国の重要文化財および史跡に指定されている熊野磨崖仏です。「鬼が一夜で築いた」という伝説が残る、自然石を乱積みした険しい石段を息を切らしながら登った先、鬱蒼とした杉木立の巨岩に彫られた2体の巨大な仏像が姿を現します。向かって左には高さ約8メートルの忿怒の相を浮かべる不動明王、右には高さ約6.7メートルの穏やかな微笑をたたえる大日如来が、千年の風雨に耐えながら佇んでいます。自然と信仰が融合したその圧倒的なスケール感は、写真や映像では到底伝えきれない神聖な迫力に満ちています。