大人が蚊に刺された場合、刺された直後から痒みが生じ、せいぜい数時間から翌日には赤みが引いていくのが一般的です。これに対して乳幼児の場合、刺された当日はほとんど変化がなく、翌日に遅れて赤く腫れ上がる経緯と理由に直面して驚かされる親が大多数を占めます。この時間差こそが、小児皮膚科学において定義される「アレルギー反応の成熟プロセス」の現れです。
蚊が吸血する際、血液の凝固を防ぐために皮膚内へ注入される唾液腺物質(アレルゲンタンパク質)に対し、人体は免疫反応を起こします。日本小児皮膚科学会の知見などによると、人間が蚊に刺された際の皮膚反応は、生涯にわたって刺された回数と免疫の学習度合いによって次の5段階で推移します。
蚊に刺された経験が極めて少ない新生児・乳児初期は、そもそもアレルゲンに対する抗体が体内に作られていないため、刺されてもほとんど腫れません(無反応期)。その後、生後数か月から幼児期にかけて抗体が形成され始めると、刺されてから1〜2日後に激しい赤み、硬結(しこり)、腫れが出現する「遅延型反応(IV型アレルギー)」が前面に現れます。これこそが、赤ちゃんの蚊刺されがパンパンに腫れる理由の核心です。
大人が経験する「刺されて15分ほどで痒くなり数時間で引く」現象は、抗原抗体反応による「即時型反応(I型アレルギー)」であり、青年期以降に両方の反応を経験したのち、加齢とともに遅延型反応が減衰していくことで成立します。さらに、乳幼児の表皮の厚さは成人の約半分(約0.1ミリメートル未満)しかなく、皮膚のバリア機能が未熟であるため、局所に集まったリンパ球やヒスタミンなどの炎症性メディエーターの影響が皮膚の全層へと波及し、大人の数倍に及ぶ局所浮腫(むくみ)を引き起こしてしまうのです。