ドラマ批評やネットニュースの言説において、今なお根強く残る最大の誤解が「世帯視聴率が1桁の作品は爆死である」という短絡的な評価軸です。しかし、2024年夏の現場実情を知るメディア関係者の間では、この物差しはすでに過去の遺物と見なされていました。
第一の盲点は、テレビ局の広告収益モデルにおけるTVer無料見逃し配信の劇的なプレゼンス向上です。『海のはじまり』を例にとると、世帯視聴率は7〜8%前後で推移していましたが、TVerでの第1話再生回数は民放全ドラマの歴代最高記録を更新(当時)し、全話累計では4,800万回を超える未曾有のトラフィックを記録しました。スポンサー企業が喉から手が出るほど求めている「購買意欲の高いF1・F2層(20〜49歳女性)」に対するリーチ力において、地上波の世帯視聴率は何の指標にもならなくなっていたのです。
第二の盲点は、コア視聴率(13〜49歳の個人視聴率)を重視する編成戦略です。『新宿野戦病院』や『西園寺さんは家事をしない』は、世帯視聴率のグラフだけを見れば平坦に見えますが、コア層のターゲットシェアにおいては同時間帯トップを争っていました。地上波リアルタイム放送を中高年層向けに手堅く作り込んだ『ブラックペアン』と、タイムシフト・配信視聴を主戦場に設計された『海のはじまり』や『西園寺さん』――これらはそもそも「戦っている土俵」が異なっていました。
ネット上の「爆死」という扇情的なワードに惑わされず、各局がどのプラットフォームでどの層を取りに行っていたのかという構造を理解することが、作品の真の価値を見極める第一歩となります。