「故人の葬儀費用を故人の預金から支払って何が悪いのか」という主張は、心情的には理解できます。判例上も、身の丈に合った妥当な葬儀費用を被相続人の財産から支出する行為そのものは、直ちに不法行為や単純承認とはみなされない傾向にあります。
しかし問題は、「引き出した行為そのものの手続き的違法性」と「使途の証明」です。たとえ1円も着服せず全額を葬儀社への支払いに充てたとしても、他の共同相続人に事前相談をしていなければ、「本当に全額葬儀に使ったのか」「香典収入はどう処理したのか」「勝手にグレードの高い祭壇を選んだのではないか」と激しい疑念を招きます。
領収書を紛失していたり、明細が不明瞭だったりすれば、親族間の信頼関係は修復不可能なレベルまで崩壊します。良かれと思って動いた結果が、遺産分割協議の完全決裂と法廷闘争の引き金になってしまうのです。