映画『ベートーベン』のクオリティを支えた最大の立役者は、初代ベートーベンを演じたタレント犬のクリス(Chris)です。伝説的なドッグトレーナーであるカール・ルイス・ミラーによって育てられたクリスは、驚くべき知能と表現力を持っていました。
「家族の会話を聞いて呆れた表情をする」「ジョージのベッドに泥だらけで飛び乗る」「絶妙なタイミングで首をかしげる」といった複雑な演技の多くは、CGが未発達だった当時、クリス自身の実演によって撮影されています。現場にはクリスのほかに複数のスタント犬や、遠景用のダミーも用意されていましたが、観客の心を掴む表情の芝居はほぼすべてクリスが一身に担いました。
撮影現場での最大の課題は、セント・バーナード特有の「よだれ」と「抜け毛」の処理でした。トレーナーは常に大量のタオルを抱えて待機し、毛並みを整えながら撮影を進行。また、名シーンの一つである朝食の食卓を揺らす場面では、クリスが指示通りに激しく体を揺らすことで、本物の家族写真のような自然なハプニングと笑いが生まれました。