蕎麦屋で提供されるそば湯とは、蕎麦(麺)を釜で茹で上げた際に残る熱い茹で汁そのものを指します。うどんやラーメンの茹で汁と異なり、なぜ蕎麦だけがわざわざ専用の器に注がれて客席に供されるのか――その最大の理由は、「蕎麦の持つ貴重な栄養素の大半が茹で汁の中に溶け出しているから」に他なりません。
蕎麦粉に含まれる良質なたんぱく質やビタミン、ポリフェノールの一種である抗酸化成分は、熱湯で茹でる過程で約40%から50%が湯の中へ溶出してしまいます。つまり、麺をすするだけでは蕎麦が持つ本来の栄養価値を半分しか摂取できていない計算になります。残された茹で汁をいただくことによって、初めて蕎麦という完全食の栄養を余すところなく身体に取り込むことができるのです。
さらに、冷たい蕎麦を手繰った後の胃腸は一時的に冷やされています。そこに温かいそば湯を流し込むことで、内臓を素早く温め、消化酵素の働きを活性化させるという生理学的なメリットも兼ね備えています。まさに先人たちが経験則から導き出した、極めて合理的な食の知恵といえます。