フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の定義によると、側音化構音(lateral misarticulation)は器質的な欠陥を伴わない「機能性構音障害」の一種とされ、「構音時に呼気が臼歯部から口腔前庭を経て側方へ流れ、一方または両方の口角から流出する歪み音」と説明されています。
では、なぜ特定の音ばかりが歪んでしまうのでしょうか。鍵を握るのは「舌の形状」と「母音のイ段」の運動特性です。
日本語の正常な発音、とりわけ「サ行」や「タ行」を発する際、人間の舌は中央部が縦に窪んで浅い溝(正中溝)を形成します。呼気はその溝を通り、前歯の隙間に向かって真っ直ぐ噴出することで、鋭い摩擦音や破裂音を生み出します。
ところが側音化構音のケースでは、舌の中央が溝を作らずに上顎(口蓋)へ向かって盛り上がり、空気の通り道を塞いでしまいます。行き場を失った呼気は、左右どちらか一方、あるいは両方の奥歯(臼歯部)の隙間を押し分け、頬の内側(口腔前庭)へと横漏れします。このとき生じる「ジュ」「シュル」という湿った摩擦音や濁った呼気音が、独特の歪み音の正体です。
歪みが顕著に現れるのは、五十音図における「イ段」の音と、それに関連する拗音(小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」が付く音)です。
- サ行・ザ行(特に「し」「じ」):呼気の精密な制御が必要なため最も歪みやすく、「ひ」や「ぎ」に近い濁った音になりやすい。
- タ行・ダ行(特に「ち」「ぢ」):破裂のタイミングで側面から息が抜け、「き」に似た音(「ちず」が「きず」に聞こえるなど)に誤認されやすい。
- カ行・ガ行(特に「き」「ぎ」):舌の奥を持ち上げる動作に伴い、気流が横へ逸れやすい。
- ラ行・ナ行・ハ行(「り」「に」「ひ」):舌が口蓋に近づくイ段の緊張時に、呼気が側面へ逸脱する。
- 拗音(「しゃ」「ちゃ」「りゅ」「きょ」など):舌を口蓋に広く接触させる必要があるため、側音化のパターンがそのまま反映される。
口唇口蓋裂や舌小帯短縮症などの明確な器質的疾患が見られないにもかかわらず、こうした誤った協調運動が生じる原因は完全には特定されていません。しかし、離乳期の咀嚼・嚥下機能の発達バランス、指しゃぶりやおしゃぶりの長期使用による口腔筋の緊張、幼児期の舌の低位(低位舌)などが複合的に関与していると考えられています。