カサンドラという名は、ギリシャ神話に登場するトロイアの王女に由来する。真実を語りながらもアポロンの呪いによって誰にも信じてもらえなかった彼女の悲劇は、現代の人間関係の歪みと重なり合う。
かつてハンス・アスペルガーが報告し、その名を冠したアスペルガー症候群のパートナーを持つ人々の苦痛を言語化したのは、イギリスのカウンセラーであるマキシーン・アストンだった。彼女は、ASD特性を持つパートナーとの関係で生じる心身の二次障害を体系化し、孤立無援だった人々に「名前」を与えた。
現在、アメリカ精神医学会 (APA)のDSM-5や世界保健機関 (WHO)のICD-11において、この状態自体は独立した疾患名として収載されていない。日本精神神経学会の議論でも、疾患というより「関係性の中で生じる重篤なストレス反応群」として扱われる。病名がつかないからこそ、当事者の苦痛が社会的に見過ごされやすい側面は否めない。