肺がんは大きく分けて「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に大別され、非小細胞肺がんはさらに「扁平上皮がん」「肺腺がん」「大細胞がん」に分かれます。このうち、喫煙と直接的な因果関係が極めて強いのは扁平上皮がんと小細胞がんです。気管支の太い部分に発生し、長年のタバコの煙による直接的な刺激が引き金となります。
対照的に、女性の肺がん罹患者の70%〜80%を占めるのが「肺腺がん」です。肺の奥深く、末梢の肺胞付近に発生するこのがんは、驚くべきことに非喫煙者の女性に極めて高頻度で発症します。タバコを1本も吸ったことがない人がなぜ肺がんに侵されるのか、その主因は長年の研究によって分子レベルで解明されてきました。
最大の要因は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質をつくる「EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異」です。国立がん研究センター等の学術調査によると、日本人をはじめとする東アジア人の非喫煙女性に発生する肺腺がんでは、およそ半数から6割近くにこのEGFR遺伝子の変異が認められます。何らかの後天的な要因でこの受容体のスイッチが「常に入りっぱなし」の状態になり、細胞が無秩序に増殖を繰り返してしまうのです。
さらに、受動喫煙の影響、家庭内での調理煙(油煙)、大気汚染物質(PM2.5)、さらには女性ホルモンであるエストロゲンががん細胞の増殖経路に相互作用している可能性など、複数の環境因子と生体因子が複合的に絡み合っていることが指摘されています。「タバコを吸わないから肺がんは無縁」という認識は、現代の医学的見地からは完全に誤りであると言わざるを得ません。