ネット上のアーカイブや動画ハイライトでは「完璧な美談」として消費されがちなこのシーンですが、グラウンドに立っていた選手たちにはそれぞれの重厚なドラマがありました。
打球を放った熊本工の澤村幸明選手は、手ごたえ十分の当たりに歓喜のガッツポーズを見せていました。当時の回顧録や特番インタビューにおいて澤村氏は、「打った瞬間は完全に犠牲フライで勝ったと思った。ベンチから飛び出してくる仲間が見えた」と語っています。しかし、振り返った視線の先でランナーが憤死する光景を目にし、天国から地獄へと突き落とされる衝撃を味わいました。
三塁走者だったキャプテンの星子崇選手もまた、俊足を生かして完璧なタッチアップを行っていました。「捕球の瞬間にスタートを切った。足には絶対の自信があったが、本塁直前でボールが視界に飛び込んできた」と証言しています。判定は間一髪のアウト。歓喜に沸くスタンドの片隅で、星子選手はその場に崩れ落ちました。このワンプレーが持つ凄みは、双方が全力を尽くした最高水準の攻防だったからこそ、今なお語り継がれているのです。