最も深刻な被害をもたらすのが、プラスチックやゴム素材に対する誤用だ。5-56に含まれる石油系溶剤成分は、ポリスチレンやアクリル、ABS樹脂などの高分子化合物を膨潤・浸食する性質を帯びている。網戸の戸車や家電製品の稼働部に「動きが悪いから」と5-56を吹きかけると、数日後にプラスチックが脆くなり、自重や衝撃で割れてしまうケミカルクラックが発生する。これは一度起きれば部品交換以外に修復する術がない。
もう一つの悲劇が「シリンダー錠の鍵穴」への噴射だ。回りにくくなった鍵穴に5-56を差した瞬間は、溶剤の力で驚くほど軽やかに回る。だが、これは一時的な錯覚に過ぎない。揮発性の高い溶剤が抜けた後、内部に残った鉱物油が外部の砂埃や金属粉を強力に吸着し、ペースト状の泥へと変化する。やがて内部のピンが膠着し、鍵が抜けなくなる最悪の事態へと発展するのだ。繊細な鍵穴には、速乾性の専用ドライ潤滑剤やシリコーン系を正しく選ばなければならない。