JR原宿駅の表参道口を出て明治通り方面へと下り、路地を一本曲がると、突如として緑に囲まれた和モダンの落ち着いたエントランスが現れます。ファッショニスタやインバウンド観光客が行き交うメガタウンの中枢にありながら、館内に足を踏み入れた瞬間、誰もが静寂の重みに息を呑むことになります。この劇的なギャップこそが、隠れ家と称される第一の理由です。
太田記念美術館の最大の特徴は、初期の肉筆浮世絵から幕末・明治の木版画まで、浮世絵の歴史全体をシームレスに網羅する「太田記念美術館 浮世絵コレクション」の圧倒的な層の厚さにあります。教科書や美術書で誰もが一度は目にしたことのある葛飾北斎 富嶽三十六景(「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」)をはじめ、奇想の絵師として若年層にもファンが急増している歌川国芳 浮世絵の傑作群を、極めて良好な保存状態かつ至近距離で目撃できます。
さらに館内の設計にも独自の美学が貫かれています。地下1階から2階へと続くフロア構成のなかに、靴を脱いで鑑賞できる畳敷きの小上がりスペースが設けられています。浮世絵が本来、床の間や座敷で手に取って愛でられていた江戸庶民の文化財であることを肌で思い出させる、心憎い空間演出と言えます。