サリーとアンの課題が世界的な注目を浴びる決定打となったのが、1985年にイギリスの児童精神医学者サイモン・バロン=コーエン(Simon Baron-Cohen)、ウタ・フリス、アラン・レスリーの共同研究グループが発表した論文「自閉症児には心の理論があるか?(Does the autistic child have a "theory of mind"?)」でした。
バロン=コーエンらは、自閉症児20名(平均暦年齢11歳11か月、平均精神年齢9歳3か月)、ダウン症児14名(平均暦年齢10歳11か月、平均精神年齢5歳11か月)、そして定型発達児27名(平均暦年齢4歳5か月)の3グループを対象に比較実験を行いました。その結果は、当時の精神医学界に大きな衝撃を与えることになります。
この実験が世界に与えた最大の示唆は、自閉症児の精神年齢(平均9歳以上)がダウン症児(平均約6歳)や定型発達児(約4歳半)を大幅に上回っていたにもかかわらず、8割もの自閉症児が「箱(現実の隠し場所)」と答えて失敗した点にあります。自閉症スペクトラムにおける対人コミュニケーションの特異性は、一般的な知能の遅れによる二次的産物ではなく、「他者の心的状態をモデル化する機能の選択的な困難」に起因することがデータによって証明された瞬間でした。