可視化が進む一方で、現実社会におけるアセクシャルの生きづらさと悩みは依然として解消されていません。当事者が最も深く傷つき、精神的な疲弊を覚える原因として挙げるのが「悪意なき善意の暴力」です。
手記やSNS、各種インタビュー調査で繰り返し語られるネットの反応とリアルな体験談からは、以下のような周囲の定型化されたリアクションが浮かび上がります。
「自著や当事者インタビューで告白されるのは、『まだ本当に好きな人に出会っていないだけ』『恋愛の素晴らしさを知らないなんて人生損している』という、悪気のない同情やアドバイスが一番の毒になるという現実です。『トラウマがあるなら治そう』『ホルモンバランスの乱れではないか』と、個人のアイデンティティを治療すべき異常値として扱われる屈辱に、多くの人が口を閉ざしてしまいます」(ジェンダー取材に携わる記者)
とりわけカミングアウトの経緯と周囲の反応において最大の障壁となるのが、実家や親族との関係性です。20代後半から30代に差し掛かる時期、「結婚して孫の顔を見せるのが親孝行」という旧来の家族観を無言の圧力として突きつけられます。自身のセクシャリティを打ち明けても、「私の育て方が悪かったのか」「親を拒絶しているのか」と親自身の問題にすり替えられ、親子の心理的共依存の構図から激しい葛藤に追い込まれる事例が後を絶ちません。