実際の医療現場において、どのような経緯で受診に至り、どのような診断が下されているのか。大病院の口腔外科に持ち込まれるリアルな患者の手記や臨床ケースから、見逃されがちな実態が見えてきます。
都内の歯科大学病院を受診した40代男性は、ウェブ検索の知恵袋で「舌の裏のぶつぶつは采状ヒダだから平気」という書き込みを盲信し、違和感を覚えながらも約8ヶ月間放置していました。当初は米粒大だった無痛性のしこりは、徐々に組織深部へと浸潤し、最終的にステージIIの舌下面扁平上皮癌と診断されました。男性は「痛みが全くなかったため、完全に油断していた。もっと早く専門医の触診を受けていれば舌の部分切除で済んだのに」と当時の手記で悔悟の念を吐露しています。
また、20代女性のケースでは、「舌の裏に水ぶくれができたが、針で突いて潰したら治った」という経験をSNS上で語っていました。しかしこれは極めて危険な民間療法です。粘液嚢胞を自己判断で破裂させても、原因となっている破綻した唾液腺(導管)が存在する限り、数日から数週間で粘液が再貯留し、再発を繰り返します。それどころか、不衛生な器具による穿刺は雑菌の深部侵入を招き、重篤な蜂窩織炎(ほうかしきえん)を引き起こして頸部まで腫れが広がる重大な医療事故に直結します。