突如生じた黒い斑点が、単なる一時的な舌の血腫と自然治癒を待てる状態なのか、それとも一刻を争う口腔悪性黒色腫メラノーマなのか。その境界線を引くためには、皮膚科領域で悪性腫瘍の鑑別に用いられる「ABCDEルール」を口腔粘膜に応用した観察が極めて有効です。
舌の血豆は、物理的圧迫によって生じるため、形状は類円形または楕円形をしており、周囲との境界がくっきりと明瞭です。表面は平滑で、粘膜の弾力性が保たれています。最大の決定打は「時間的推移」にあり、発症から数日をピークに徐々に暗褐色から黄色へと変色し、一般的には1週間から10日程度、長くとも2週間以内には自然に吸収されて消失します。
対照的に、悪性黒色腫をはじめとする悪性病変には、明確に異なる病理的特徴が表れます。国立がん研究センターなどの公表データおよび頭頸部外科学会の知見を統合すると、以下の異常所見が警戒サインとして定義されています。
1つ目は「非対称性(Asymmetry)と境界不鮮明(Border)」です。良性のほくろや血豆が均整の取れた輪郭を持つのに対し、悪性黒色腫は外側に向かって不規則に染み出すように広がり、境界がギザギザとして曖昧になります。
2つ目は「色調の不均一(Color)」です。単一の黒色や均一な暗紫色ではなく、黒、褐色、青、さらには脱色された白や赤がまだらに混在するモザイク状の様相を呈します。
3つ目は「病変の拡大と隆起(Evolving)」です。数週間から数カ月単位でサイズが拡大し、平坦だった斑点が部分的に盛り上がって硬結(しこり)を形成したり、わずかな刺激で容易に出血して潰瘍化します。
舌癌(主に扁平上皮癌)の多くは白斑や赤みを帯びた潰瘍、硬いしこりとして現れますが、腫瘍内部の微小出血や壊死組織の付着によって黒色や暗褐色を混交させることがあります。いずれの場合も「組織の崩壊と持続的拡大」が共通項となります。