退院会計の明細書を見て、「なぜエンゼルケアに健康保険が効かないのか」と疑問を抱く遺族は少なくありません。医療機関で行われる行為でありながら、エンゼルケアが保険適用外となる理由は、日本の公的医療保険制度が「生存している患者に対する療養の給付」を定めたものだからです。
医師が心停止・呼吸停止・瞳孔散大を確認し、死亡を宣告した瞬間に、その患者の被保険者資格は法的に喪失します。したがって、死亡宣告の後に実施されるエンゼルケアはすべて保険診療の枠外となり、医療機関が独自に価格を設定する自由診療(自費負担)の扱いとなります。
全国の医療機関における費用相場を検証すると、一般的な病院で5,000円〜20,000円程度に設定されているケースが全体の8割以上を占めます。この金額の内訳には、以下のような実費が含まれています。
・エンゼルセット代(衛生材料、ガーゼ、専用被覆材、吸水ポリマーなど):約3,000円〜5,000円
・死装束(白経帷子)代:約3,000円〜10,000円
・看護師の処置技術料・整容衛生管理料:約5,000円前後
中には「退院時費用」として一括請求され、エンゼルケア単体の項目が明示されない病院や、入院基本料の範囲内として無料(病院側の持ち出し)で対応する施設もあります。一方で、専用の高級死装束や特別な保冷パックを選択した場合、3万円を超える請求となる事例も存在します。病院ごとの価格差は技術の優劣ではなく、セット資材の原価と施設の方針の違いによるものです。