日本全国でハルジオンが「貧乏草(びんぼうぐさ)」の俗名で呼ばれる背景には、地域の風習や生活文化に根ざした明確な3つの理由が存在します。
第一の理由は、「手入れができない荒れた庭や貧しい家の周囲に群生する」という視覚的イメージです。キク科ムカシヨモギ属に属するハルジオンは、土壌の栄養が乏しいコンクリートの隙間や空き地でも旺盛に繁殖します。手入れが行き届かない屋敷の庭に真っ先に生い茂る様子から、貧しさを象徴する植物として結びつけられました。
第二の理由は、「摘んだり家に持ち帰ったりすると貧乏になる」という親世代の教育的戒めです。昭和期の子どもたちの間では「ハルジオンを折ると貧乏神が憑く」という迷信が広く共有されていました。これは、野草を手当たり次第に摘んで服や手を汚したり、衣服に花粉や青臭い汁が付着したりするのを防ぐために、大人が子どもを諭す目的で口にした生活の知恵でした。
第三の理由は、手折ると急速に萎れてしまう儚さとしぶとさの対比です。摘み取るとすぐにぐったりと元気を失い、みすぼらしい姿になる一方で、庭草として抜いても根が残っていれば何度でも再生します。「家を貧乏にさせるほど駆除が厄介な雑草」という庭主の苦い実感が、その呼び名を定着させた要因でもあります。