映画のクライマックス、文化祭の雑踏の中で石田将也が流した大粒の涙。そして人々の顔に張り付いていた無数の「×(バツ印)」が一斉に剥がれ落ち、色鮮やかな光と音が世界を満たすシーンは、アニメーション史に残る名シークエンスとして語り継がれています。
山田尚子監督と劇伴音楽を担当した牛尾憲輔氏は、この映画において「聴覚や視覚の生理的な質感」を徹底して追求しました。補聴器を介した世界のこもり、ピアノの筐体の中にマイクを沈めて録音された微細な打鍵ノイズなど、劇中の音響設計そのものが「音の形」を物質化する試みでした。
小学校時代の罪悪感から他者の顔を見られず、他者の声を「遮断すべきノイズ」として拒絶していた将也は、耳を塞ぐことで自身を守っていました。しかし、硝子をはじめとする他者と泥臭く衝突し、傷つけ合いながらも向き合った果てに、彼は自ら耳の防壁を外します。その瞬間、かつて恐れていた周囲のざわめきが、祝福に満ちた「生きている人々の声」へと反転しました。周囲の人間がそれぞれの声を持ち、懸命に生きている輪郭を視界に捉えた瞬間にスクリーンへ現れる『the shape of voice』。このタイトル回収は、観客自身の閉ざされた心をも激しく揺さぶり、国内外の映画レビューサイトで高い共感を呼び起こしました。