シリーズの華である男はつらいよ 歴代マドンナ 一覧には、日本映画史を彩る錚々たる名女優たちが名を連ねています。吉永小百合(第9作・第13作)、八千草薫(第10作)、浅丘ルリ子(計5作)、松坂慶子(第27作・第46作)、大原麗子(第22作・第34作)など、当時のトップ女優たちが寅さんの前で見せた飾らない笑顔と陰りのある表情は、山田監督の演出力と渥美清の包容力によって引き出されたものです。
その完璧な芝居の裏には、主演・渥美清 撮影秘話として語り継がれる徹底したプロ意識がありました。関係者の証言や当時の手記によると、渥美清は撮影期間中、決して私生活を周囲に見せず、現場へも一人で電車やタクシーを使って通い続けたといいます。「車寅次郎」という稀代のパブリックイメージを守るため、街中でファンに声をかけられても常に寅さんとして応対し、素の「田所康雄(本名)」としての顔を徹底して隠し通しました。
晩年は病魔と闘いながらの撮影となりましたが、山田洋次監督をはじめとするスタッフはカメラアングルや動線を工夫し、座った状態でも寅さんの威勢の良さが損なわれないよう細心の配慮を重ねました。痛みを一切表に出さず、カメラが回ればあの粋な啖呵売(たんかばい)を響かせた渥美清の役者魂こそが、作品に唯一無二のリアリティと切実さを与えています。