獄中の剛志から毎月欠かさず届く分厚い手紙。そこには弟の体を気遣う言葉や、刑務所内の単調な日常が無邪気に綴られていました。しかし、外の世界で「人殺しの弟」として差別と闘い続ける直貴にとって、その手紙は愛情の証ではなく、逃れられない呪縛そのものでした。
直貴が勤める会社の敷地内で発生した窃盗事件の濡れ衣を着せられた際、倉庫勤務へと左遷した電機メーカーのトップ・平野社長が放った言葉は、本作における最も残酷で本質的な名言として知られています。
「君が差別されるのは当たり前なんだ。兄貴が人を殺したということは、君の人生をも巻き込む犯罪だったんだよ。世間の差別は、犯罪に対する当然の防衛反応だ」
平野社長は決して直貴を憎んでいたわけではありません。むしろ社会の冷酷な力学を理解した上で、「差別を理不尽と怒るのではなく、兄の罪の重さとして受け止め、それでも誠実に生きろ」と諭したのです。自暴自棄になっていた直貴を支え続けた白石由実子(後に妻となる女性)と結婚し、娘が生まれた直貴は、娘までもが公園で避けられ、幼稚園受験で排除される現実に直面します。守るべき家族ができた直貴は、兄からの手紙をすべて焼き捨て、剛志宛てに「二度と手紙を書かないでほしい。あなたとは縁を切る」という最後の手紙を送る決断を下しました。