施工ミスが極めて生じにくいとされるトルシア形高力ボルトですが、現場の劣悪な環境や作業員の不注意によって「締め付け不良」が発生することがあります。検査員および現場管理者が絶対に看過してはならないのが「共回り」と「軸回り」です。
本締め後の目視検査において、一次締めで引いたマークラインがどのようにズレているかを確認します。合格となる正常な回転角は、一次締めトルクから本締め破断まででおよそ50度〜100度(呼び径や板厚により多少前後する)回転した状態です。
1. 共回り(ともまわり)とその対策
外ソケットでナットを回す際、座金やボルト頭部が母材に対して一緒に回転してしまう現象です。マークを確認した際、座金と母材のラインがズレていたり、ボルト軸部とナットの相対位置が動いていない場合は共回りが発生しています。この状態では所定のトルクがボルトの引っ張り力に変換されていません。対策はただ一つ、該当ボルト一式を新品に全数取り替えることです。
2. 軸回り(じくまわり)の危険性
ピンテールが折れる前にボルト軸自体が共回りしてしまい、ナットがほとんど回っていないにもかかわらずピンテールだけが破断してしまう現象です。原因の多くは、雨天放置によるねじ部の錆付きやゴミの噛み込みです。見た目上はピンテールが破断しているため合格に見えますが、マークのズレを見れば回転角が不足(30度未満など)していることが露呈します。これも即時交換の対象です。
3. 水濡れ・湿気によるトルク係数値の変動
現場で最も頻発するトラブルが「雨濡れ」です。トルシア形高力ボルトの潤滑被膜は水と極めて相性が悪く、一度でも雨滴や夜露にさらされると潤滑被膜の化学的性質が変化し、トルク係数値が異常上昇します。その結果、ピンテールが早期破断して必要な軸力が全く導入されない「締め付け不足」を引き起こします。降雨時の作業中止はもちろん、未開封ボルトのシート養生と現場保管管理の徹底が不可欠です。