伊都内親王願文の全貌|橘逸勢の真偽と臨書の極意・全文現代語訳

伊都内親王願文の全貌|橘逸勢の真偽と臨書の極意・全文現代語訳

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全68行からなる「伊都内親王願文」は、格調高い四六駢儷体(しろくべんれいたい)を基調とした漢文で綴られています。その全文は、仏教の慈悲と無常観を説く序文から始まり、母・藤原平子の生前の遺訓、具体的な寄進物件の目録、そして将来にわたってこの供養が永続することを願う誓いによって構成されています。ここでは、願文の精神がもっとも凝縮された冒頭部および結びの重要な箇所の書き下し文と、分かりやすい現代語訳を紹介します。

冒頭部の書き下し文と現代語訳

【書き下し文】
夫れ大慈大悲は苦を抜き楽を与ふ。至極の慈、何ぞ報ぜざるを得んや。内親王、謹みて亡妣(ぼうひ)従三位藤原朝臣の遺命に依り、香灯読経の料を山階寺東院西堂に奉入す。伏して乞ふらくは、法界の有情、幽顕の諸霊、同じく無上菩提の果を証せんことを。

【現代語訳】
そもそも仏の大慈大悲とは、衆生の苦しみを取り除き、安楽を与えるものであります。この上ない仏の慈愛に対し、どうして報いずにいられましょうか。私、伊都内親王は、亡き母である従三位・藤原朝臣の遺言を謹んで守り、香や灯明、読経の費用として私財を山階寺(興福寺)の東院西堂に奉納いたします。伏して願わくは、この世とあの世のあらゆる生きとし生けるものたちが、ともに最高の悟りを得られますように。

寄進条項と結びの書き下し文と現代語訳

【書き下し文】
合せて墾田十六町余、荘一処、畠一丁。右件の地は、平生開墾する所にして、家門の所領なり。今、亡妣の懇情に任せ、永く金剛不壊の資と作(な)す。若し子孫相次ぎ、或いは無知の徒ありて、利を貪り法を犯し、此の財を侵奪することあらば、諸天善神、痛くその身を滅ぼさん。天長十年九月二十一日、伊都。

【現代語訳】
合計して墾田16町余、荘園1か所、畑1町。これら諸々の土地は、母が生前に自ら切り拓いた家伝の所領であります。いま、亡き母の切なる願いに従い、仏法を永遠に支え護るための資財といたします。もし将来、私の子孫や道理を解さない者が現れ、欲に目が眩んで法を犯し、この寄進財産を奪うようなことがあれば、仏法を護る神々よ、厳しくその者を滅ぼし給え。天長10年9月21日、伊都。

この文面から浮き彫りになるのは、母の遺領をめぐる親族間の紛争を防ぎ、何としても母の菩提を守り抜かんとする伊都内親王の断固たる意志です。激しい文言を伴う起請文の性質を帯びているからこそ、そこに宿る筆致もまた、尋常ならざる迫力を帯びることになったのです。

山本 拓海
著者

山本 拓海

デジタルガジェットとスマート家電の検証記事を多数執筆。失敗しないモノ選びを提案します。